平成28年5月23日裁決 相続税路線価は駄目・借金は他の財産と相殺できない

(平成29年5月23日裁決)

《裁決書(抄)》http://www.kfs.go.jp/service/JP/107/07/index.html

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人G、同J及び同K(以下、順に「請求人G」、「請求人J」及び「請求人K」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した財産の価額について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)に定める方法により評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、一部の土地及び建物の価額は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるとして、国税庁長官の指示を受けて評価した価額により相続税の各更正処分等をしたのに対し、請求人らが原処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

注目裁決 「伝家の宝刀」で節税策を否認! 被相続人が借入金で不動産購入

以下記事転載

注目裁決 「伝家の宝刀」で節税策を否認! 被相続人が借入金で不動産購入

https://nichizei-journal.com/kan/%E6%B3%A8%E7%9B%AE%E8%A3%81%E6%B1%BA%E3%80%80%E3%80%8C%E4%BC%9D%E5%AE%B6%E3%81%AE%E5%AE%9D%E5%88%80%E3%80%8D%E3%81%A7%E7%AF%80%E7%A8%8E%E7%AD%96%E3%82%92%E5%90%A6%E8%AA%8D%EF%BC%81%E3%80%80%E8%A2%AB/

2018/05/07

 借入金で賃貸不動産を購入し、相続税のかかる財産を大幅に圧縮・節税した事案で、国税不服審判所が「財産評価基本通達に基づく評価では不適当」として、国税庁長官の指示する評価方法を採用した評価額を適正と認定した裁決事例が資産家や税理士らの話題を呼んでいる(平成29年5月23日裁決)。

 財産評価基本通達6項では、財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価すると定められている。この「伝家の宝刀」と言われる評価通達6項を適用した事案であること、また、相続人が相続した賃貸不動産を相続税申告後すぐに売却し、借入金を返済している事実関係の下で節税策が否認されたことも、この裁決に関心が集まっている要因のようだ。

 平成20年5月、被相続人は会社の代表としてR銀行に〇〇診断を申込み、孫の代まで事業を承継させたいこと、また、事業承継にともなう遺産分割や相続税の不安などを伝えた。翌年、被相続人はR銀行からの借入金で賃貸不動産を購入。平成24年6月に被相続人が亡くなり、相続人Aは同年10月、被相続人が購入した賃貸不動産について遺産分割協議を成立させ、当該不動産と債務を相続し、評価通達に定める評価方法で相続税を申告した。その後、相続人Aは、およそ取得価額と同程度の金額で不動産を売却している。

 一方の原処分庁は、「本件の通達評価額は、不動産の取得価額および譲渡価額、不動産鑑定評価額の30%にも満たない僅少なもので、著しい価額の乖離があり、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情がある」として、鑑定価格と同様の金額で更正したことから争いとなった。

 国税不服審判所は、被相続人が借入れを申込んだ際、融資担当者が作成した『貸出稟議書』には、「相続対策のため不動産購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった」などの記載があり、相続税の負担軽減を主たる目的として各不動産を取得したものと推認。

 そして、「被相続人や請求人らによる各不動産の取得から借入れまでの一連の行為は、被相続人が通達評価額と鑑定評価額との間に著しい乖離のある各不動産を借入金により取得し、本件申告において評価通達に定める評価方法で評価することにより、借入金の債務合計額が各不動産はもとより、ほかの積極財産の価額からも控除され、請求人らが本来負担すべき相続税を免れるという結果をもたらす」と指摘した。

 その結果、「実質的な租税負担の公平を著しく害し、著しく不公平なもの(中略)。評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情があると認められ、本件各不動産の価額は、(中略)ほかの合理的な時価の評価方法である不動産鑑定評価に基づいて評価することが相当」と判断している。

相続税節税以外の目的があっても否認された! 審判所、不動産評価で「伝家の宝刀」追認

以下記事転載https://kaikeizine.jp/article/9096/

相続税節税以外の目的があっても否認された! 審判所、不動産評価で「伝家の宝刀」追認

バブル経済時代に横行した節税対策が最近、再び資産家に提案され、それが国税不服審判所から否認されたことで税の専門家や資産家から注目を集めている。というのも、国税当局の“伝家の宝刀“とういうべき「財産評価基本通達6項」を適用しており、更には、国税不服審判所が節税以外の合理的な理由について事実関係から一つの見解を示したからだ。

借入金で節税が再び否認

これまで土地資産家などに薦められてきた紋切り型の相続税対策といえば、「借入金で不動産を購入することで相続税の節税を」という手法だ。バブル経済のころは、地価暴騰で相続税の負担に恐怖を抱いていた土地資産家に、土地さえあればキャッシュがなくても借入金を利用した遊休地活用で節税できるといった甘言を囁く「節税請負人」が横行していたほど。ただ、こうした節税は、物件価格目いっぱいまでの100%ローンを組んだことから、バブル崩壊後は不動産価値が急落し、ローン返済がままならず、自前の不動産まで手放す憂き目を見た人が多かった。

なにより当時、借入金で不動産を相続開始直前に購入した節税策自体も、否認された事例(東京地裁平成4年3月11日判決、東京高裁平成5年1月26日判決)があり、こうした“尖った節税策”にはリスクが付きものという教訓が生まれた。ところが、喉元過ぎればなんとやらで、最近、同様の手法で節税策を試みるも、当局から否認された裁決事例が注目を集めている(国税不服審判所平成29年5月23日裁決)。

この事例は、借入金で賃貸不動産を相続開始およそ3年前に購入することで、相続税が課税される財産を大幅に圧縮・節税した事案。国税不服審判所は、財産評価基本通達に基づく評価では不適当だとして、国税庁長官の指示する評価方法を採用した評価額を適正と認定したもの。注目される第一の理由は、財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価することを定めている「財産評価基本通達6項」という、国税当局としては、“伝家の宝刀“を適用した事案だという点だ。

注目点は売却時期と節税以外の目的

このほか、同事例が注目されているのは、相続人が相続した賃貸不動産を相続税申告後すぐに売却し、借入金を返済している事実関係の下で節税策が否認された点や、納税者側が節税以外に合理的な目的があると主張したにもかかわらず、国税不服審判所に認めてもらえなかった点。

この事件の流れは平成21年に被相続人が購入していた賃貸不動産を平成24年10月に遺産分割協議を成立させ、その半年後に当該不動産と債務を相続した相続人は、およそ取得価額と同程度の金額で不動産を売却していたというもの。

また被相続人は、節税策を実行するため金融機関から融資を受けたが、金融機関の稟議書には「相続対策のため不動産購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった旨及び相続対策のため本年1月に不動産購入、前回と同じく相続税対策を目的として収益物件の購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった」旨の記載があった。一方、相続税申告は評価通達通りで行い取得価額及び、譲渡価額のおよそ30%弱だった。

これに対し税務署は「評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情がある」として、賃貸不動産が貸家や貸家建付地であることに伴う相続税評価の減価等を否認し、鑑定価格と同様の金額で更正したことから争いとなった。

国税不服審判所の判断

国税不服審判所は、

「本件被相続人及び請求人らなどによる本件各不動産の取得から借入れまでの一連の行為は、本件被相続人が本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間に著しい乖離のある本件各不動産を、借入金により取得し、本件申告において評価通達に定める評価方法により評価することにより、本件借入金債務合計額が本件各不動産はもとよりほかの積極財産の価額からも控除され、請求人らが本来負担すべき相続税を免れるという結果をもたらす」と指摘。このため国税不服審判所は「実質的な租税負担の公平を著しく害し、著しく不公平なもの(中略)。評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情があると認められ、本件各不動産の価額は、(中略)ほかの合理的な時価の評価方法である不動産鑑定評価に基づいて評価することが相当」

とした。

この考え方は、バブル時代の裁判例と同じ内容といっていいもの。東京地裁平成4年3月11日判決の事例は、被相続人が死亡する約2カ月前の昭和62年10月に、大手不動産会社の公表していた分譲価格である7億5850万円で買い受け、相続人がその翌63年に7億7400万円で他に売却したというもの。東京地裁は、概ね「被相続人が相続開始直前に借り入れた資金で不動産を購入し、相続開始直後に右不動産が相続人によってやはり当時の市場価格で他に売却され、その売却金によって右借入金が返済されているため、相続の前後を通じて事柄の実質をみると当該不動産がいわば一種の商品のような形で一時的に相続人及び被相続人の所有に帰属することとなったに過ぎないとも考えられるような場合についても、画一的に評価通達に基づいてその不動産の価額を評価すべきものとすると、他方で右のような取引の経過から客観的に明らかになっているその不動産の市場における現実の交換価格によってその価額を評価した場合に比べて相続税の課税価格に著しい差を生じ、実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難い事態を招来することとなる場合があるものというべきであり、そのような場合には、前記の評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情がある場合に該当するものとして、右相続不動産を右の市場における現実の交換価格によって評価することが許される」と判示している。

ところで、今回の裁決事例では、節税以外の合理的目的があれば問題ないのではないかといった納税者側からの主張があった。一般論として、節税策ではまず、合理的な目的がありそれ達成するためにこうした方法になったと説明できるようにしておくことが大切だとされる。節税効果は副次的なもので経済的な行為としては節税以外で説明がつくことが「肝」ともいわれる。納税者はこうしたことにコミットした主張をしたものとみられるが、国税不服審判所はにべもなく次のように述べている。

「請求人らは、本件被相続人の本件各不動産の取得には、節税や租税回避以外の合理的な目的が存在していた旨主張する。しかしながら、(中略)相続税の負担を免れる目的以外にほかの合理的な目的が併存していたとしても、(中略)本件各不動産について評価通達に定める評価方法を適用すれば相続税の目的に反し、実質的な租税負担の公平を著しく害することに変わりはなく、相続税の負担の軽減以外の合理的な目的によって、本件各不動産について評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情の存在が肯定されなくなるものとすべき根拠は乏しいというべきである」

あくまで節税策には、実質的な租税負担の公平を著しく害するという効果があることに着目した厳しい考えとなっている。このような“尖った節税策“は、益々リスキーとなってきている。

著者: 遠藤純一

タクトコンサルティング 情報企画室課長  

平成3年 エヌピー通信社に入社。 編集局にて「納税通信」担当後、編集長代理を経て副編集長。平成14年 タクトコンサルティング入社。情報企画室にて、情報収集と情報発信を行っている。
■株式会社タクトコンサルティング/税理士法人タクトコンサルティング
https://www.tactnet.com/

相続税対策として借金して賃貸物件購入しても駄目

記事転載https://yoshizawafp.co.jp/2017/12/11956/

 

 

 

相続スペシャリストのブログ

え~、相続税対策として借金して賃貸物件購入しても駄目なの???

投稿日:2017年12月28日

平成29523日、国税不服審判所で興味深い裁決が出ました。

 

なんと、「相続税対策として借金して購入した賃貸物件の評価に相続税評価額を使えない、不動産鑑定評価額(時価)で評価しろ」と言われたのです。

 

本件、財産評価基本通達「総則6項」適用、いわゆる“伝家の宝刀”が抜かれています。

 

<概要>

・被相続人は、銀行に相続税対策を相談し、銀行は借入金による賃貸物件の取得を提案した。

・これを受け、被相続人は、相続税の負担軽減を目的とした不動産購入(マンション2棟)資金であることを認識し銀行から借入を行った

・購入したマンション2棟の相続税評価額は取得価額の30%未満であった。

・相続が発生し、評価通達に基づいて賃貸物件を評価し申告したところ、税務署が「著しく不適当」総則6項により不動産鑑定評価額(時価)で更正処分を行った。

 

<審判所の判断>

・不動産の取得から借入までの一連の行為は、相続税の負担軽減を主たる目的として行ったものであり、他の納税者との間での租税負担の公平を著しく害し、相続税の目的に反するものである。

 

ちょっと、ちょっと、それ言われたら「アパート建築」「マンション投資」なんて、そのほとんどが成り立たなくなってしまいます。

 

そもそも節税っていけないことなの?

脱税じゃないよ。

事業リスク背負って、借金背負って、投資しているよ。

 

「評価額が30%未満」と、時価との乖離幅が大きかったから問題視されたの?

だったらタワマン投資なんて(一部の自宅見栄張り富裕層とアジア勢を除くと)ほとんどダメじゃん。

 

以前出た「養子縁組のきっかけが節税であっても、親子関係を構築する意思があれば問題なし」の判決に照らすと、「アパート建築、マンション投資のきっかけが節税であっても、賃貸事業を行う意思があれば問題なし」なんじゃないの???

 

金融庁がアパマンローンを問題視していることと、何か政治的にリンクしてるのでは?と勘ぐってしまいます。

 

本件は、なんと「公表裁決」です。

国税不服審判所裁決の公表率は1%と言われています。

なぜ、本事案が公表裁決になったのか…見せしめ的な匂いがプンプンしますね。

 

今回駄目と言われたのは「不動産の評価」についてであり、借金して賃貸物件に投資する行為そのものが否定されている訳ではありません。

 

今後裁判に発展する(している?)のかどうか知りませんが、行方から目が離せません。

 

相続に携わる不動産業界、建築業界、金融業界の皆さん、要注意ですよ!